点Nの軌跡

競プロの話または日記

給食じゃんけんの思い出

学校給食。それはいつの時代も変わらない、学校生活における数少ない楽しみのひとつ。プリンやゼリー、ケーキといった個包装のデザートが出る日はなおさらである。しかし、こういう日に限って欠席しているやつが1人はいるもの。欠席者がいればその人数分余ってしまう。この余ったデザートは希望者の手に渡る*1のだが、希望者多数の場合はなんらかの方法によって獲得権を奪い合わなければならない。最も一般的なのは明確かつ公平な手段であるじゃんけんであろう。これがタイトルにある「給食じゃんけん」であり、退屈な毎日を生きる小学生にとっては絶対に負けられない戦いである*2

 

話は変わるが、多くの小学校には特別支援学級*3が設置されている。知的障害を抱えているとか、身体に障害があるとか、とにかく通常の学級で生活することが難しい何らかの事情をもつ児童が勉強する場所である。僕が通っていた学校にも設置されており、同じ学年にここで生活している子(以下Aくん)がいた。当時の僕が見て判断した限り、なんらかの発達障害があった(小学生なので本当のところは知らないし、小学生にとってそんなことはどうでもいい)同じ教室で勉強することは少なかったが、給食の時間には教室にAくんもやってきてみんなと同じ場所で給食を食べていた。

 

もう10年ほど前の話なのでその日のことは詳しく覚えていないのだが、とにかく給食じゃんけんが開催された。僕は給食じゃんけんにはあまり参加しなかったのだが、その日は気まぐれで参加した。Aくんもあまり参加していた記憶がないのだが、その日は参加していた。全体の参加者はそこまで多くなかった。そのため、スタンダードに全員によるじゃんけんで勝者を決めることになった*4。ここで、僕はあることを思い出した。Aくんは、パーしか出さないのである。となれば、考えられる戦略はひとつしかない。チョキを出し続けるのだ。そうすればAくんが生き残っている限り自分は負けることはなく*5、その間に人を減らして勝つ可能性を上げることができる。ちなみに、この戦略には以下のような欠点がある。

  • 大前提として、Aくんがいなければ使えない。(クリア)
  • Aくんに関する事実の知名度が高く、皆がこれを利用した場合、効果が期待できない。
  • グーを出す者がいる限りあいこになって勝負が長引くため、その間に気付かれれば効果が薄れる。あと心象も悪い。
  • 上のようなことがなくとも、たまたまAくんが早々に敗退した場合、残りは自分の運に託すしかない。
  • そんなことをして、心が痛みませんか?

しかし給食じゃんけんは非情なものである。勝者がすべてを手に入れ、敗者は何も得られない。あまりこういう場面に強くない僕が勝ちを手に入れる、またとないチャンス。不安要素は大きいが、試す価値はじゅうぶんにある。僕はじゃんけん開始からチョキだけを出し続けた。余ったデザートが多かったとか、そういう特別な条件があったかもしれないが、とにかくデザートは僕の手に渡った。自分でもびっくりするぐらいうまくいった。参加者の誰かは気付いていたかもしれないが、特に後から何かを言われた記憶もない。

 

あの日僕はどうするべきだったのだろうか。正直なところ、反省のしようがない。少なくとも僕がじゃんけんのルールに違反していないのは事実であり、デザートは僕が正当な手段で手に入れたものである。特別支援学級のAくんが同じ手しか出さないと分かっていながら、それを利用して勝つのはフェアではなかったかもしれない。しかし、わざわざ負けるような手を混ぜて出すべきだったとは思わないし、それもまたフェアではない気がする。というか、そもそもあの場面においてはじゃんけん自体がフェアではなかったのだ。最初に書いた通り、じゃんけんはきわめて明確で公平な手段である。しかし、それはAくんのような人間がいない場合に限られる。あの日の給食じゃんけんのような場面で公平をめざすのであれば、くじ引きとか、あみだくじ*6 とか、そういうもののほうがまだマシである。

 

思ったより若干重くて長い話になってしまった。綺麗にまとめたいのだが思いつかないのでこれで終わり。

*1:現在は衛生上の観点から近所の児童が欠席者の自宅に届けるという方法で処理するケースは多くないと思われる

*2:賢明な読者諸君はすでに知っていたかもしれない

*3:なかよし学級とかひまわり学級とか呼ばれることも多く、そちらのほうが伝わりやすいかもしれない

*4:複数人でもルールそのままに行えるのがじゃんけんの強みであるが、あいこの確率が上がって時間がかかることが予想されるため、参加者があまりにも多い場合は何らかの工夫が必要である。たとえば、その場でトーナメントを行うか、教員との同時複数対戦で連勝数を競うなどの方法がある

*5:証明は簡単なので読者諸君への課題とする

*6:ただ、あみだくじはうまくやらないと非常に不公平になる